近年、女性医師の割合が増加しています。厚生労働省の発表によると、2004年時点では男性医師に対して女性医師は2割にとどまりますが、29歳以下で見ると実に3割を超えており、4割を超える日もそう遠くはなさそうです。
▼2006年厚生労働省 「医師の需給に関する検討会報告書」
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/07/dl/s0728-9c.pdf#page=45
しかし、女性医師が働く上で、結婚、家事、妊娠、出産、育児というハードルは高く、将来に対する不安や悩みは大きいのではないでしょうか。
私たちの呼吸器内科にも、多くの女性医師が所属しています。
今回は、呼吸器内科に入局して間もない3名の女性医師の皆さんに、先輩の長井助教がインタビューし入局までの経緯や今後の目標など、等身大の彼女たちの姿に迫ります。
長井 桂 先生
1995年 旭川医科大学卒業
2009年 北海道大学大学院医学研究科 助教
長井最初に、内科を選んだ理由をお聞かせください。
古田最初から内科志望でした。特に理由はないのですが、とにかく内科以外は眼中になかったです。
阿部私の場合、研修前は内科と決めていたのですが、研修中に外科系にも魅力を感じました。でも、最終的には内科に戻りました。
五十嵐学生のときは漠然と産婦人科を希望していました。研修中には皮膚科も考えましたが、次第に「内科医として患者さんと関わりたい」という気持ちと、聴診器を持つイメージが自分の中で大きくなり、内科に決めました。
長井ありがとうございます。
ここに、ACP (米国内科学会)日本支部Women's Committeeが札幌医科大学(以下、札医)、旭川医科大学(以下、旭医)、北海道大学(以下、北大)を含む医学生数百人に行ったアンケートの集計結果があります。男性と女性の意識の違いが見られるのが「不安に思うことついて」という設問です。女性からは「再就職支援をしてもらえるのか」という声が多いです。医師を「続けられるか」という不安は、男性より女性が高いと言えます。
進路について学生の希望を聞いたところ、たとえば、小児科や産婦人科の希望は男女とも一定数いますが、実際に進む科は最初の希望と結構違います。
女子医学生は最初それほど興味を持っていなかった科へ進む比率が男子医学生より明らかに高くなっています。それには、将来的にちゃんと働いていけるか、続けていけるかという要素が選択に関わっていると考えられます。
アンケート内容
ACP (米国内科学会)日本支部Women's Committee報告書(遠藤香織他)
医療の質・安全学会誌 第5巻 第4号
特徴的な分布を示した6分野における、医学生に一番興味のある科(質問9(1)、男子n:女子n=525:289、左)、医学生が現実に進む科(質問9(2)、502:276、中央)割合と、現実の全国医師割合5) (男性n:女性n=218,318:45,222、右)との比較
阿部 智絵 先生
2009年3月 旭川医科大学 卒
2011年4月 入局
長井それでは、呼吸器内科に入局した理由をお聞かせください。
阿部私は帯広厚生病院で初期研修をしましたが、呼吸器内科の研修は特に楽しく、充実していたと感じました。上の先生方の面倒見がよくて、「自分にできるだろうか」ということまでいろいろやらせていただきました。また、雰囲気がとてもよかったので、これから続けていく上での安心感がありました。
それから、長井先生をはじめとして女性の先生が多いというのはやはり魅力的でした。自分の年代に近い女の先生もたくさんいらして、結婚されたり、外来だけにしてご出産されたりなど、いろんな働き方があるんだなということが実感できました。自分の将来には不安を抱いていますが、相談できる先生がいるということは心強く感じます。呼吸器だけでなく循環器や消化器も、希望があれば研修させていただけることも魅力です。自分の専門しかできなくて何かあったらすぐにほかの人にお願いしなければならない、というのはいやなので。
長井入局を決めたのはいつですか?
阿部心の中で決めたのは10月くらいでした。
古田私は研修中に決めました。2年間、北海道社会保険病院で研修をしていました。
やはり充実していたというのが大きな理由の一つです。上の先生が忙しい病院だったのですが、よく面倒も見てもらえましたし、手技や疾患の指導も結構ありました。
五十嵐 絢子 先生
2010年3月 札幌医科大学卒
2012年4月 入局
長井2年間のうち意識し始めたのはいつでしたか?
古田私は1年目の終わりに呼吸器を回ったのですが、とても充実していて「よかったな」と思い、2年目も回りました。最終的に決めたのは2年目の秋です。決めなきゃいけないというプレッシャーはかなりありましたね。
五十嵐帯広厚生病院に2年いました。雰囲気がすごくよくて、呼吸器内科にはとても教えたがりな先生が多いと言いますか、小さなことでも親身になって聞いてくださいます。だからこそ勉強もしようと思いました。また、内科医実力養成セミナーでは、呼吸器内科だけではなく広く研修医にセミナーを開いていて、「呼吸器内科全体として内科医をしっかり育てよう」という気風がすごく感じられます。
長井内科医実力養成セミナーの印象はどうでしたか?
呼吸器がメインの科ではありますがいろいろな経歴の方、様々な分野に精通している先生をなるべく広くお呼びしているのですが、それは入局に関してどれくらい役立ちましたか?
五十嵐私もともと北大出身ではなかったので、北大の先生方と知り合うよい機会になりました。その後、呼吸器内科の見学に来たときにも覚えていてくださり、人間関係上の架け橋になったと思います。
長井今ちょうど話に出ましたが、たまたま皆さん北大以外の大学の出身です。別の大学の医局に入るにあたって、その考え方とか出身大学の違いを感じることはありましたか?
阿部私は旭医出身なのですが、旭医出身の先生方も多いので、あまり関係ないと感じます。同じ大学出身の先生が多いのは心強い気がしますけど、知らない先生が多くてもそれほど気にならないです。
古田帯広にいるときは、いろいろな大学の出身の先生が多かったのですが、抵抗感はほとんどありませんでした。
五十嵐私は最初は少し考えました。自分の出身大学に残る先生も多いですよね。
でも、呼吸器内科に来たとき「出身大学は全然関係ないよ」と言われましたし、帯広のときにお世話になった先生も多いので、実際には抵抗はなかったですね。
札医の同期とは、コンタクトをとって情報交換しています。
長井特に呼吸器内科では出身大学は関係なく皆活躍していますよ。それが当たり前のように感じるのですが、ほかの大学の先生の話を聞くと、実はまったく違うのですよね。
北海道はもともと出身地をあまり意識しない地域ではありますが、本州では出身大学で区別されたり、名札に出身大学を書かされたりすると聞いて驚いたことがあります。
呼吸器内科は、他大学の方にもおすすめです。
古田 恵 先生
2009年3月 旭川医科大学卒
2011年4月 入局
長井皆さん今3年目4年目ということで、大学病院で研修してもらっていますが、大学病院と市中病院の研修を比較して、率直にいかがですか?
阿部大学病院のメリットは、医師の数が多いので、困ったときに助けてくれる人がいるということですね。医師一人当たりが受け持つ患者さんの数は、市中病院に比べてすごく少ないと思います。その分一人一人に時間をかけられるし、忙しいからと言って目をつぶらざるをえないところもない。また、自分に近い期の人たちがいるので、お互いにどんなことをしているか、話ができることもよい点です。
長井大学病院でできないこと、困ったことはありますか?
古田外病院の方が症例数が多いので、いろいろ診られます。呼吸器で言うと、外病院では肺がんもがん以外の呼吸器疾患も診られますが、大学病院では何か月間も診られない期間があります。
一方、外病院では忙しくて目をつぶらなければならないこともあり得ます。「とりあえず、何とかしなきゃいけない」という状況を、大学病院に来てから勉強し直すこともあります。
もちろん市中病院でも、間違っていることをしているときは、周りの先生から指摘があるのですが、ほとんどは自分で判断しなければなりません。
週に何回もカンファレンスして、自分の症例を皆の眼でチェックしてもらうという機会が、外病院だとあまりありません。
五十嵐外病院の方が手技は多く、座って何かを読んでいるとか患者さんに思いをはせることは大学の方が多いかな、と。
ただ、一つ驚いたことがあります。大学病院の方が気管支鏡の件数が多く、細かい手技まで熱心に指導を受けられていることです。また、発表をする機会を与えてくださるので、今度地方会で症例を出させていただきます。研究や発表を熱心にしている大学に来てよかったと思っています。
長井皆さんがたまたま共通の研修病院だった帯広厚生病院は学会発表も盛んですし、検査もたくさんしっかりやっている素晴らしい病院の一つです。ただ、呼吸器内科が少しほかの科と違うのは、大学病院であるにもかかわらず最先端の検査が豊富に経験できるということです。気管支鏡については実績的にも優れている北大から、関連病院だけでなく気管支鏡留学を通じて香港にまで技術が広まっています。普通の大学ではそうはいかないと思います。
学会発表は、地方会・全国学会含めおそらく一年に一度は必ず発表することになると思います。よい症例があれば、論文化の機会もあります。後に自分の実績になっていきますし、将来的に専門医になる段階でも役立つと思います。
古田ずっと仕事を続けていきたいと思います。
阿部呼吸器内科の特色だと思うんですけど、分野が広いですよね。循環代謝チームもありますし、肺がんも非癌もあり、それぞれ一年間でやらせていただくので、かなり広くて揺れ動きます。まずは一人前になれるよう早く専門分野を決めたいと思っています。
五十嵐仕事と家庭を両立できるようになりたいですが、今は自分の目標を決められていないので、まずは目標を決めたいと思います。専門分野を決めるのか、家庭を持ちつつ両立させるのが目標なのか、それともある程度いったんどちらかペースダウンしてもいいのか、など最近悩んでいます。
長井私は女性であるということを学生時代も医者になってからも意識することはそれほどなかったのですが、皆さんは意識することはありますか。
阿部たくさんありますね。呼吸器内科はとても女性に優しい医局だと思いますし、先輩の女医の先生もたくさんいらっしゃって恵まれてるなと思います。でも実際に自分がいつか子どもが生まれたとき、そういう風に両立できるのか、支えてくれる人がいたとしても不安です。
長井こちらは医師会の雑誌に載った、呼吸器学会でのアンケート調査結果です。今は女性医師の割合は平均30%近くに上りますが、高齢の女性医師は少なめです。男性の20代~50代以上は90%以上結婚しているのですが、女性は半分以下です。呼吸器専門医を取得している女性は少ないです。ただ、専門医を取得したいという希望は女性の方が実は高いのです。希望はあるけれども、もしかしたらいろんな障害があって取得できないのかもしれません。
▼日本呼吸器学会将来計画委員会 調査報告
わが国における女性呼吸器科勤務医の勤務環境と課題
http://www.jrs.or.jp/home/modules/glsm/index.php?content_id=52
今、大学の医局は34.3%が女性医師です(2012.9月現在)。周りにずっと働き続けている女性医師がいるかどうかは大きいと思うのですが、入局に際して役立ちましたか?
阿部そうですね。どんなに立派な話を聞くよりも、身近に働いている方がいらっしゃる方が実感できますよね。
長井入局してみて、想像と違っていたなというところはありますか?
五十嵐本当に皆さんお優しくて指導熱心な先生ばかりという印象がもともとあったのですが、本当にそのとおりで、人間関係のストレスは何もありません。自分の勉強不足と自分との闘いという感じで、いい環境で勉強させていただいていると思います。
長井もっとこうなればいいのにとか、言いたいことは本当にないですか?(笑)
古田大学に来る前は「大学は雑用も多いし大変だよ」という話は聞きますね。でも、毎日忙しく流れ作業のように仕事をするよりも、いっとき基本的なことを指導されていた方が、今後働く上ではいいのかなと思っています。どんどん年次が上がってくると、人から教えられるということもなくなるでしょうし。そういう意味ではすごい恵まれている状況なのかなと思います。
長井大学病院の研修はどうですか?
阿部さっき先生がおっしゃってたように、こんなに検査が多いとは思っていませんでした。毎日、午前も午後も検査です。「こんなのやって当たるのか」というくらい小さいものも検査しています。私は何回も失敗しているんですけど、何回もチャンスをいただいています。時に厳しく、時に優しく指導していただいています。
長井初期研修医と違い、後期研修医は決まったオーベンの先生がついているわけではなく、グループのサブリーダーの先生から教わっていると思うのですが、どうですか?
古田サブリーダーかどうかはほとんど関係なく、どの方も他のグループの先生に聞いたりも気軽にできます。ありがたいです。
長井「循環代謝グループ」はユニークなグループですが、実際どうですか?
五十嵐「循環代謝グループ」の名前は知ってましたが、あまり臨床実習で回っていなかったので、実感として知りませんでした。最初に回らせていただいて、「まさか私が心エコーをやっているのか」と驚きました。でも心エコーも糖尿病についてもすごく勉強になります。肺がんに来ても、糖尿病や心臓が悪い患者さんもたくさんいらっしゃいます。全部が複合している患者さんばかりなので、逆に循環代謝グループのときの患者さんも肺の病気、感染肺炎の患者さんとか、多かったです。いろいろ絡み合っているので、呼吸器内科で「胸」のいろいろな観点から診られて「すごい科だな」と思いますね。
古田帯広にいるときも、肺高血圧の患者さんがいたんですけど、普通の市中病院だと「肺高血圧?なにそれ」みたいな感じだと思います。膠原病との絡みで「間質性肺炎」など必ず関係してくると思うので、大学でしか診れない疾患をまとめて診られることが大学病院のよさだと思います。
長井留学に行かれている先生がいたり、臨床研究をする先生も病棟にいらっしゃいますし、普通の病院では体験できないようなことができているかなと思います。
長井初期研修終了後、入局ではなく直接一つの病院に勤務するという選択肢もあります。皆さんはあえて入局を選んだわけですが、その理由をお聞かせください。
五十嵐私は入局しないという選択肢を深く考えたことがありませんでした。どこかの医局に所属して、しっかり育ててもらえた方がよいですよね。医局に入るということは、じっくり力をつけられるということです。特定の分野で突出してはいないかもしれませんが、漏れはありません。「これを学んでおくべき」というプログラムがすでにあるのが大学病院だと思います。
古田自分でどんどん取捨選択できる方であればよいと思うのですが、入局すると漏れのない、裾野の広い、しっかりとした学びが可能だと思います。
長井入局を選ぶ人は以前よりは少なくなりましたが、それでも半分以上の人が医局に所属しています。組織に属することをよく思わない人も中にはいるかもしれません。入局すると自分が想像していなかったことを「経験しておいた方がよいから、やりなさい」と言われることはありますね。でも、思ってもみなかった経験で、生涯興味の持てる分野に巡り合ったと言う人もいます。呼吸器内科では研修のパターンは様々で大学院進学も自由ですし、留学希望もほとんど認めています。「臨床一本でやっていって開業します」という人もいます。明確な希望があればいろいろな進路を認めているんですよね。
五十嵐昔だったら医局と言えば「次はあそこ、その次はここ」というイメージだったんですけど、特に呼吸器内科は可能な限り要望を聞いていただけています。
長井今後結婚したり、子どもを持ったりすると、働き続けることが難しくなるかもしれません。それでも低空飛行でもよいので医師を続けてほしいと私は思っています。
特に呼吸器、循環器、糖尿病など内科は続けて行こうと思いさえすれば可能だと思います。途中で一時的に一線から退いたとしたとしても、復職の手段はあると思うので相談してくれればと思います。そう言う意味では、生涯にわたってサポートしてくれるシステムは医局ならではのよい所だと思っています。
ちなみに北大では女性医師等支援事業があり、当科の清水薫子先生が中心に活動をしています。
古田女性の先生は、選択肢の幅が広いんですよね。仕事1本で行こうと思っている先生、家庭と両立したい、細々とでも続けたいなどです。今の私たちもそうですけど、学生さんは余計そう思うと思います。呼吸器内科では「こういう道があるよ」というモデルを示してもらえますから、いいアドバイスをいただけたり、素晴らしい環境だと思います。お勧めです。
五十嵐呼吸器内科は、留学したいとか臨床一本でやりたいとか、自分の意思が聞いていただける科だと思います。決まっていない人もいろんな分野での刺激をもらえて、今後考えて行こうと思える科です。内科の中で迷っている人でも、思い切って入ってみなさい、という科です。
阿部私も悩んだんですけど、進路について悩んでる人は是非いらしてください。もちろん、たくさんの男性の先生たちにもよくしていただいているんですけど、できれば女性の後輩もたくさん入ってもらえるとPJ会も盛り上がるかなと思いますので、嬉しいです。