北海道大学大学院医学研究院 呼吸器内科学教室 北海道大学病院 呼吸器内科 Department of Respiratory Medicine, Faculty of Medicine, Hokkaido University

2013 特集記事

2013 特集記事特集 No.3 現地レポート

留学だより 74期 大平 洋

留学

2012年7月にOttawaに来てから1年が過ぎましたので近況をお伝えしたいと思います。
Clinical fellowとして雇われているため、通常の研究留学とは異なり、心臓核医学検査のレポート作成をdutyとして行いながら、合間に臨床研究を進めるという毎日を過ごしています。心臓核医学の負荷検査では運動・薬物負荷を行うために検査中に胸痛、不整脈、血圧低下、その他もろもろのことが起こります。その場合、Reading roomに電話が来て、その日の担当者は検査室に行き、対処しなければなりません。また、検査結果に対して外来主治医、病棟主治医、市内のfamily doctorから問い合わせの電話がかかってくることがあり、それに答えなければならないことも時々あります。英会話が得意ではない僕にとってこれらの仕事は非常にストレスで、何も起きませんようにと願いながら過ごしています。お察しの通り、こちらに来て1年経ちますが英語についての苦労は絶えることがありません。一例、笑い話を紹介します。検査室から運動負荷中に患者さんが足から出血しているから来てくれと連絡が来たので行きました。確かに運動着のズボンに血液が付着しています。男性だったのでズボンを脱いでもらうとパンツのちょうど股間の部分が特に赤くなっています。診察すると陰嚢の表面に治りきっていない擦過傷があって、運動に伴い循環血液量が増え、じわじわと出血したと思われました。これを英語で説明しようとしたのですが、どうしても陰嚢という単語が思いつきません。困ったのですが、以前、息子が“ball sack”がどうしたこうしたと、小学校低学年の好きそうな話題を友達としていたことを思い出し、思わずこの単語を使って説明しました。すると患者さん、検査技師さんに大笑いされてしまいました。後日、辞書で調べてみて、医師としてはかなり不適切な単語を使ったことが判明して恥ずかしい思いをしましたが、カナダの人は寛大なので、投書などもなく笑い話で済んでほっとしています。

ところで昨シーズンのオタワは世界で最も寒い首都だったそうです。また数年ぶりの大雪で(といっても札幌の半分以下ですが)除雪が大変でした。1月、2月の最も寒い時期には一日の最高気温がマイナス20度以下という日も多く、人生で最も寒い冬を過ごしました。この時期はオタワの中央を流れるリドー運河も凍りつき世界で最も長い天然のスケートリンクになります。僕は北海道にいる間もスケートは一度もやったことがありませんでしたが、これは経験しておかなければと思い、家族全員で行ってみました。屋内のスケートリンクと異なり、表面がガタガタなので最初は滑るのに苦労しましたが、とても楽しい経験でした。

ここには書ききれない様々な出来事があり、「留学は楽なことばかりではない、むしろ苦労の方が多い」という僕の尊敬するある先生のお言葉通りの1年間でした。後で振り返った時に後悔のないように残りのOttawaでの生活を送りたいと思います。私ごとになりますが留守を守ってくれている、両親・叔父夫妻、この留学生活に付き合ってくれている妻・子供達、また何よりも人手不足の中、留学に送り出していただいた循環代謝グループをはじめとする呼吸器内科の諸先生にはこの場を借りて重ねて御礼申し上げます。