2011年1月よりアメリカのマサチューセッツ州のボストンにありますマサチューセッツ総合病院(MGH)がんセンター、Dr.Birrerのもとで研究を行っております。このラボは卵巣癌ラボです。自分の研究テーマは卵巣がんで高発現している転写因子soxについてで、研究も3年目に突入し、佳境に入るか、と思いきや、ネガティブデータの嵐で残すところ半年でまとまる気配もなく、帰国することになりそうです。が、学んだ事も多く、アメリカのラボで勉強できることができ、とてもよい経験になりました。
論文をかく事はできそうもありませんが、アメリカでもっと貴重なもの(長男)を夫と共同作成しましたので、今回はアメリカでの出産について、経験したことを書かせて頂きたいと思います。日本との違いを感じる事が多々ありました。
まず大きな違いとして、出産に限りませんが、こちらの医者の仕事はごく限られている、ということです。こちらではnurse practitionerという、医師と看護師の中間のような人が存在します。投薬、注射等、彼らが自分で判断して処方ができ、日本の研修医とほぼ同じような事をしています。病室には彼らがやって来て、なにか訴えるとその場で病室についているコンピューターに入力して処方してくれます(便利ですよね)
加入している保険にもよりますが、妊娠がわかっても婦人科にはなかなかかかれません。自分の勤め先であるMGHの産科に電話して診察の予約をとろうとしましたが、約5週間後の予約となり、不便と思いました。いよいよ診察となりましたが、外来に受診すると、まず個室に案内されます。看護師から既往歴、家族歴等聞かれる時に、Do you feel safe at home? と質問され、よく聞いてみると、パートナーから暴力を振るわれたりしていないか、という質問でした。アメリカでは多くて問題になっているようです。
定期受診では看護士の補佐が体重、血圧計測などしてくれ、次に看護士が現れ、胎児の心音を聞き、なにか問題ないか等を質問されます。それがすむと、最後に医師が現れますが、"Hello friend!" といって入ってきて、彼女はただ私のお腹のサイズを計って、what can I do for you? と聞いてくれるのですが、その時点ではナース補佐→ナース(→時にはエコー技師→放射線科医)と経緯しているため、問題はたいていの場合解決しており、ないとすぐ診察終了です。毎度1、2分診療くらいでしょうか。Genetic counselorには別に受診し、高齢のため羊水穿刺を勧められ、検査を受けましたが、結果は電話で報告、ということで、good news! normal 46XY! と言われ、電話で結果、というのは結果が良かったから問題なかったものの、なにか異常があった場合には、不便かと思います。
産休は日本では産前6週、産後8週が法定ですが、MGHではNIHを基準にしているとのことで、産前産後いつとってもよいが、paid leaveは8週間、と決まっています。すべてを産後に~という訳で、出産の前日まで働いていましたが、こちらではそれが普通の様です。産休は8週間でも長い方、という話で、アメリカ女性は体力あるな~というのが感想です。
さて、いざ出産の日はまず、医学部生のアナムから始まり、メモをみながら質問され、私の下肢静脈瘤を見て、これ何?と聞くので、妊婦には静脈瘤ができやすい旨、説明しましたが、そうしている間に陣痛が強くなってきました。3人目にして初めての硬膜外麻酔予定だったので、痛み止めを早くしてほしいと頼むと、ドクターがきて、同意書を取り始め、スパスパ質問に答えて、とにかく早くして~と頼みました。ばたばたと麻酔科医がきて、看護師が私の手を握ってくれ、なかなか硬膜外が入らない!指導されながら研修医がやっている!ずいぶん時間はかかりましたが、そのうち痛みがすっかりやわらぎ、硬膜外麻酔の素晴らしさには感動しました。
痛みがすっかり和らいだ時点で、夫が来院し、スタッフ一同から、やれやれやっときた~と大歓迎されました。その後痛みもないまま3時間が経過し、医者や看護士が突然ばたばたと入ってきて、"さあ、産みますよ" と突然言われビックリ。え、もう?という感じでしたが、息む事約15回くらいで、つるっと産まれたのでした。こちらでは、夫も産休をとる人がほとんどです。少なくとも1週間は皆ラボに来なくなります。1ヶ月とる人もいます。夫も今まで出産後に仕事を休む事などなかったのですが、今回は1週間休みを取ってくれました。
これが、私のアメリカ出産記です。今後留学されるかたも、アメリカで出産されることもあるかと思いますが、異文化満載でとにかく面白かったです。ちなみにミドルネームもつけられる、ということで、我が家の長男にもノアの箱船からとって、"ノア"という立派な名前をつけました。3人の子+仕事の両立は厳しいところもありますが、夫と協力して、あと半年楽しませていただきたいと思います。