北海道大学大学院医学研究院 呼吸器内科学教室 北海道大学病院 呼吸器内科 Department of Respiratory Medicine, Faculty of Medicine, Hokkaido University

2012 特集記事

2012 特集記事特集 No.3 現地レポート

留学だより 73期 菊地 英毅

73期 菊地 英毅

私は、平成23年1月より、米国ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、Kwok-Kin Wong先生のもと肺がん研究に従事しております。近年肺がんをはじめ多くの悪性腫瘍で、原因となる遺伝子の異常がいくつか特定されてきていること、そしてその遺伝子をターゲットとした治療が可能となってきていることから、この分野の研究は飛躍的に発展してきています。当ラボでは、そういった遺伝子をマウスに組み込んで肺に発現させ、肺がんの発生あるいは治療に影響を与えるかどうかを調べています。

たとえば、肺の細胞のEGFRやKrasといった遺伝子に異常があると肺腺がんが出来てきますが、さらに1つ2つの遺伝子異常が加わると、がん細胞の顔つきがかわったり、進行が速くなったり、薬が効かなくなったりします。こういったことが自分の目の前の顕微鏡やMRIで繰り広げられることは実に感動的です。また、ダナ・ファーバーだけでも4つも5つも肺癌ラボがあり、近隣のブリガム&ウィメンズホスピタル、ベス・イスラエル・メディカルセンター等にも肺癌ラボがありますから、合同リサーチミーティングではさまざまなラボから最新情報が聞け、毎日興奮が止みません。
こういった基礎研究の話を聞くと、自分は臨床医を目指しているので関係ない、実験は嫌いじゃないけど留学までは結構です、と思われる若い先生や学生さんも多いかと思いますが、僕の意見としては、数年なのだから、臨床が好きな方こそ得られるものが多いのではないかと思います。実験結果を見ながら、「あの時の患者さんの病態はこうだったんじゃないか」などと思えることは、臨床医の特権でしょう。
私は英語が苦手で、留学1年目はイエスとノーしか言えませんでしたが、最近アイムソーリーを覚えました。英語ができればそれはもちろん留学が非常にすばらしいものになると思いますが、できなくてもなんとかなります。

また、研究のことだけでなく、子どもの教育、食事の用意、人間関係、住居のこと、お金の事、自分たちの健康や医療システムのことなど、日本と全く異なるため苦労する事が非常に多くあり、日本の良い面、悪い面を含め多くの事を考えさせられます。日本という国はこれからどういう道を歩むべきなのか、より良い社会を築くためにはどうするべきなのかなど、日本の外から日本を見つめる機会は非常に有意義なものだと感じています。

私は、留学に行きたいと思っていましたが、行き先がなかなか決まりませんでした。留学出来た事は呼吸器内科の先輩後輩の後押しや助けがあったから出来た事です。留学で得られる経験はすばらしいものですし、皆さんも是非留学を目指していただきたいと思います。